< 職業紹介事業者の活用 >
多くの企業が人材確保の難しさに直面しています。求人を出しても応募が集まらない、ミスマッチによる早期離職が発生するなど、採用活動における課題は年々深刻化しています。
こうした課題に対応する手段の一つに、「職業紹介事業者」の活用があります。専門的な知見やネットワークを有する職業紹介事業者の利用により、企業のニーズに合った人材の採用につなげていくことも可能です。
今回は、企業が職業紹介事業者を活用する際に押さえるべきポイントや、認定された優良事業者の活用法、制度改正への対応などをご紹介します。
一 職業紹介事業者を利用する際のポイント
1)職業紹介の概要
@職業紹介とは
職業紹介とは、求人と求職の申込みを受けて、求人者と求職者の間で雇用関係が成立するよう、第三者としてあっせんすることです。
利用者である企業は、職業紹介事業者を通じて人材を募集し、求職者はその支援を受けて仕事を探します。
職業紹介事業者は、企業と求職者の間に立ち、条件に合った人材の推薦、面接調整、採用後のフォローなどを担います。
A有料・無料の職業紹介
職業紹介事業者には有料のものと無料のものがあります。
有料職業紹介の場合、港湾運送業務や建設業務を除くほぼすべての業種が紹介業務の対象となります。
無料の職業紹介には、ハローワークや大学等によるものがあり、取扱職業の範囲には特段の制限がありません。
2)紹介事業者を活用するメリット
企業にとってのメリットの例として、次のようなものがあります。
・即戦力とのマッチング
・採用の効率化
・ミスマッチの軽減
・アドバイスの提供
3)手数料と契約について
有料職業紹介事業者を利用する場合、採用が決定した段階で紹介手数料が発生します。手数料の形態には、「紹介した人材の年収の○%」のように設定されるもの(報酬型・成功報酬型)と、定額で設定されるものがあります。
一般的には報酬型・成功報酬型が多く、その手数料は、求める職種の専門性や特殊性等にもよりますが、入職者の年収の30%程度が多いと言われています。
「上限手数料制度」および「届出制手数料制度」が定められており、紹介事業者はこのいずれかに準じて手数料を明示する必要があります。
紹介後に短期間で離職した場合には、一定条件で手数料の一部が返金される「返戻金制度」が設けられている場合もあります。契約時にはこの制度の有無を確認しておくとよいでしょう。
4)事業者選びのポイント
信頼できる職業紹介事業者を選ぶには、次の点に着目しましょう。
・厚生労働省の許可事業者であること
・情報公開していること
・紹介実績、離職率、手数料が明確であること
・自社の業種・職種に対応しているかどうか
・紛らわしい名称を使用していないか
・個人情報保護や労働法令の遵守体制があるか
これらの情報は、厚生労働省の「人材サービス総合サイト」で確認できます。
5)求人時の留意点
職業紹介事業者に求人を出す際は、次のような労働条件を正確に伝え、明示する必要があります。
・雇用形態、契約期間、更新基準
・業務内容とその変更の範囲
・就業場所とその変更の範囲
・勤務時間、休日、時間外労働の有無
・賃金、固定残業代の有無と内訳
・社会保険、労働保険の適用状況
・受動喫煙防止措置 など
これらの情報が不明確な場合、求職者との認識違いやトラブルの原因となります。
また、情報に変更が生じた場合には、速やかに紹介事業者を通じて修正内容を明示する必要があります。
二 職業紹介優良事業者の活用
厚生労働省において、職業紹介事業の資質向上と適切な競争環境の整備を目的に、「職業紹介優良事業者認定制度」が実施されています。この認定は、法令遵守、業務運営の適正性、紹介後の定着率、経営の健全性など複数の審査基準を満たした職業紹介事業者に与えられます。
認定された事業者は、サービス品質が一定以上であることが保証されており、企業にとっては安心して依頼できる存在です。
特に医療・介護・保育といった分野では、「適合紹介事業者宣言制度」もあり、専門性の高い事業者を見極める材料となります。
三 直近の制度改正を踏まえた留意点
職業安定法において、求人時の明示義務や表示の適正化に関する改正が相次いでいます。
令和6年4月施行の改正では、求人時の労働条件明示に「変更の範囲」などが追加されました。これにより、企業は、雇用直後の業務内容だけでなく、将来的に想定される異動や転勤の可能性も含めて明示する必要があります。
また、令和4年10月施行の改正では、求人情報の的確な表示が義務付けられました。例えば、実際の業務内容と異なる職種名を記載したり、モデル給与をすべての労働者に適用されるように誤認させたりすることは、「誤解を生じさせる表示」として違反対象となります。
これらの改正は、求職者の信頼確保とミスマッチ防止のために重要な措置です。企業としては、最新制度を把握し、求人内容の正確性を常に見直す体制を整えておくことが求められます。
四 求人の不受理
企業が職業紹介事業者に求人を申し込んだ場合であっても、一定の要件に該当する場合は、その求人が受理されないことがあります。例えば、法令違反歴がある企業や、労働条件が著しく不適当な内容である場合などです。
さらに、職業紹介事業者からの、要件に該当するか否かの自己申告依頼に正当な理由なく応じない場合も、求人不受理の対象となります。企業は、正確な申告と誠実な対応を心掛ける必要があります。
五 おわりに
職業紹介事業者の適切な活用は、企業の採用活動の質と効率を高める有力な手段となり得ます。最新の制度や認定制度を理解し、信頼できる事業者を選定し、企業が求める人材の採用や持続的成長につなげていきましょう。
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